毎月勤労統計調査への協力を国は呼びかけるが... |
嘘だろ!?
...と思って半ば呆然として接した、毎月勤労統計数値がウソだったという報道。正直に言って、この統計を小泉が活用したことはないけれども、結構重要な統計で、経済活動を計るのに使われたりしているというのは、何となく知っている。
「不適切調査は平成8年から行われていた」
「従業員500人以上の事業所は全数調査がルール。しかし16年からは、賃金が高い傾向にある大規模事業者が多い東京都内約1400事業所のうち3分の1だけを抽出して調べ、このことが全国の平均賃金額が低く算出されることにつながった。」
「勤労統計不正、23年前から ずさん対応浮き彫り」
2019年1月12日 17時47分 産経新聞 写真は時事通信社
結果として「不適切調査により、雇用保険の失業給付や労災保険などの過少支給の対象者は延べ約1973万人で、追加給付の総額は約537.5億円に上る」(同)。政府は予算の組み換えが必要になるなど、異例の事態とのことだ。
だが、しかし。
影響はそれだけか?
というのが、小泉の心配。
というのは、この統計を基準または参考としていて、国の施策などに影響が及んでいる場合が、まだまだあるのではないかということ。失業保険や労災保険の給付は、ありうべき賃金収入の全部または一部が途絶えてしまったから、それを補うという趣旨で、その適正な水準の算定に毎月勤労統計が使われている。ざっくり言えばそういうことだろう。
そうすると、ありうべき賃金水準、望ましい賃金水準としての指標が必要になる施策の制度設計に、毎月勤労統計が材料として使われている場合は、まだまだ他にもありそうじゃないですか? ね?
毎月勤労統計調査結果の主な利用状況
Ⅰ 厚生労働省における利用状況
1 失業給付の額の算定に用いる賃金日額の範囲等の自動的変更
雇用保険法第18条において、年度の平均給与額(毎月勤労統計調査における4月か
ら翌年3月までの平均定期給与額の(単純)平均値)の変動に応じ、失業給付のうち
求職者給付の基本手当日額の算定に用いる賃金日額の範囲等を改訂することとなって
いる。
2 労働災害の休業補償
労働基準法第76条第2項において、常時100人未満の労働者を使用する事業場につ
いては、毎月勤労統計調査における毎月きまって支給する給与に一定の変動があった
場合に休業補償の額を改訂することとなっている。
3 労災保険の保険給付
労働者災害補償保険法第8条の2第1項第2号において、休業補償給付基礎日額は、
毎月勤労統計調査における毎月きまって支給する給与に一定の変動があった場合、そ
の変動幅に応じて改訂することとなっている。
また、同法第8条の3第1項第2号において、年金給付基礎日額は、毎月きまって
支給する給与の変動幅に応じて改訂することとなっている。さらに同法第16条の6に
おいて規定される遺族補償一時金の額の算定にも用いられる。
4 平均賃金の算定
離職後の診断によって業務上の疾病が認められた場合等、労働基準法第12条第8項
の規定に基づく平均賃金を算定する際に、平均定期給与額の変動率が参考に使用され
る場合がある。
5 未払賃金の立替払い
賃金の支払の確保等に関する法律第7条に基づく未払賃金の立替払事業のうち、立
替払の最高限度額の決定に平均定期給与額が参考に使用されている。
6 各種審議会等の審議資料
最低賃金の決定に係る中央最低賃金審議会の審議資料として使用されている。
社会保障審議会年金部会における審議資料として使用されている。
7 労働時間短縮の推進
「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(平成4年法律第90号)に基づく
労働時間短縮に関する各種施策の実施において、総実労働時間(調査産業計、事業所
規模5人以上、30人以上)を年換算したものが参考指標として使用される場合がある。
8 労働経済の分析
労働に関する経済問題の総合的な分析を行っている「労働経済の分析」、「働く女
性の実情」等において利用されている。
Ⅱ 他省庁における利用状況
1 経済分析(月例経済報告、経済財政白書等)(内閣府)
毎月閣議に報告される月例経済報告の中で、労働経済情勢を示す重要な指標として、
賃金では現金給与総額指数、きまって支給する給与指数(いずれも調査産業計、事業
所規模5人以上)の前年同月比、季節調整値及び前月比が利用されており、労働時間
では所定外労働時間指数(製造業、事業所規模5人以上)の季節調整値及び前月比が
取り上げられている。
また、経済問題の総合的な分析を行っている「経済財政白書」等において、労働経
済情勢を示す指標として利用されている。
2 景気動向指数(内閣府)
景気動向指数は、景気の現状把握及び将来予測のために、内閣府が生産、雇用など
景気に敏感な29系列を使って作成・発表しているものである。これまで、所定外労働
時間指数(調査産業計)が一致系列に、常用雇用指数(調査産業計、前年同月比)が
遅行系列に採用されていたが、第11次改訂(2015年7月)後、きまって支給する給与
(製造業、名目)が新たに遅行系列に採用された。
3 国民経済計算の推計の資料(内閣府)
国民経済計算の推計に際し、雇用者報酬の算定資料となっている。
4 建設工事の労務単価の算定(国土交通省)
建設工事の契約や製品単価の決定などで、人件費の算定基礎資料に利用されている。
5 人事院勧告の基礎資料(人事院)
民間給与の一般的動向の把握に使用されている。
Ⅲ その他の利用状況
1 海外への紹介
ILO、OECD等国際機関に定期的に報告されるなど、国際的にも広く利用され
ている。
2 民間企業における利用
イ ベースアップ等賃金改定の参考資料としての利用ほか、労働関係の基礎資料とし
て利用されている。
ロ 民間の調査研究機関等が、景気判断、景気予測等を行う際に利用されている。
3 民事事件・事故などの補償額の算定
交通事故の補償など逸失利益算出の基礎資料として利用される場合がある。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/dl/maikin-katsuyou.pdf
ひー。これはエライことじゃないですか? 冒頭のいくつかは、国が差額支給の方向で動いている既報の件として。
最低賃金や年金の審議資料。建設工事の労務単価の算定(国土交通省)。人事院勧告の基礎資料(人事院)。ベースアップ等賃金改定の参考資料としての利用。これらは、国民の所得水準に影響しそう。
最低賃金が低い水準に抑え込まれていたとしたら、その分のバイト代を遡って支払えと雇用主あてに請求したり、国の怠慢で損害を被ったんだから損害賠償しろなんて事例が出てきてもおかしくない。
「年金はもっと支給されているべきだった。差額を支給しろ」なんていう風に、国民年金について野党は突くんじゃないかなあ。政府としても無視できないでしょ。年金給付については、国民は敏感だからね。するとこの間と今後の給付水準について、改めて社会保障審議会(年金部会)に諮問するんだろうか。参議院選挙前だから、「えい、過去に遡って差額支給してしまえ」なんてことになったら、年金運営の健全性も損なわれてしまいかねない。訴訟リスクもありそう。20年以上も不適切な統計だったんだから。
建設工事の労務単価は、オリンピック準備と復興需要で高い水準だったのが、更に高く改定されるのだろうか。過去にさかのぼっての単価改定になるのか。公共事業で債務負担行為で複数年度にわたる契約をしていた場合等、不当に低い単価で契約させられていたという理由で、施工業者から契約変更を求められる可能性があるのではないか。すでに完了済みの工事についても、差額の請求や、訴訟を提起されるリスクが考えられる。これらをどう見込んで、自治体は予算編成するのか。自治体財政運営にも不確定な要素が生じてしまうとすれば、嬉しいことではないだろう。
人事院勧告もどうするのか。遡って改訂だ(選挙前だし)、なんてことになったら、地方自治体も補正予算で対応しなければならない。
民間企業も、春闘に影響するかもね。
今回の件で、日本の統計もそのような疑いの目で他の自由経済の国から見られてしまうとしたら、悲しいことだ。
厚生労働省の罪は深い。
この際、他の政府統計に誤った手法が用いられていないか総点検の上、結果を公表して信頼回復に努めるべきではないか。
というのは、この統計を基準または参考としていて、国の施策などに影響が及んでいる場合が、まだまだあるのではないかということ。失業保険や労災保険の給付は、ありうべき賃金収入の全部または一部が途絶えてしまったから、それを補うという趣旨で、その適正な水準の算定に毎月勤労統計が使われている。ざっくり言えばそういうことだろう。
そうすると、ありうべき賃金水準、望ましい賃金水準としての指標が必要になる施策の制度設計に、毎月勤労統計が材料として使われている場合は、まだまだ他にもありそうじゃないですか? ね?
毎月勤労統計が使われている施策
ググってみると、ありましたよ。厚生労働省のホームページの資料から引用してみる。毎月勤労統計調査結果の主な利用状況
Ⅰ 厚生労働省における利用状況
1 失業給付の額の算定に用いる賃金日額の範囲等の自動的変更
雇用保険法第18条において、年度の平均給与額(毎月勤労統計調査における4月か
ら翌年3月までの平均定期給与額の(単純)平均値)の変動に応じ、失業給付のうち
求職者給付の基本手当日額の算定に用いる賃金日額の範囲等を改訂することとなって
いる。
2 労働災害の休業補償
労働基準法第76条第2項において、常時100人未満の労働者を使用する事業場につ
いては、毎月勤労統計調査における毎月きまって支給する給与に一定の変動があった
場合に休業補償の額を改訂することとなっている。
3 労災保険の保険給付
労働者災害補償保険法第8条の2第1項第2号において、休業補償給付基礎日額は、
毎月勤労統計調査における毎月きまって支給する給与に一定の変動があった場合、そ
の変動幅に応じて改訂することとなっている。
また、同法第8条の3第1項第2号において、年金給付基礎日額は、毎月きまって
支給する給与の変動幅に応じて改訂することとなっている。さらに同法第16条の6に
おいて規定される遺族補償一時金の額の算定にも用いられる。
4 平均賃金の算定
離職後の診断によって業務上の疾病が認められた場合等、労働基準法第12条第8項
の規定に基づく平均賃金を算定する際に、平均定期給与額の変動率が参考に使用され
る場合がある。
5 未払賃金の立替払い
賃金の支払の確保等に関する法律第7条に基づく未払賃金の立替払事業のうち、立
替払の最高限度額の決定に平均定期給与額が参考に使用されている。
6 各種審議会等の審議資料
最低賃金の決定に係る中央最低賃金審議会の審議資料として使用されている。
社会保障審議会年金部会における審議資料として使用されている。
7 労働時間短縮の推進
「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(平成4年法律第90号)に基づく
労働時間短縮に関する各種施策の実施において、総実労働時間(調査産業計、事業所
規模5人以上、30人以上)を年換算したものが参考指標として使用される場合がある。
8 労働経済の分析
労働に関する経済問題の総合的な分析を行っている「労働経済の分析」、「働く女
性の実情」等において利用されている。
Ⅱ 他省庁における利用状況
1 経済分析(月例経済報告、経済財政白書等)(内閣府)
毎月閣議に報告される月例経済報告の中で、労働経済情勢を示す重要な指標として、
賃金では現金給与総額指数、きまって支給する給与指数(いずれも調査産業計、事業
所規模5人以上)の前年同月比、季節調整値及び前月比が利用されており、労働時間
では所定外労働時間指数(製造業、事業所規模5人以上)の季節調整値及び前月比が
取り上げられている。
また、経済問題の総合的な分析を行っている「経済財政白書」等において、労働経
済情勢を示す指標として利用されている。
2 景気動向指数(内閣府)
景気動向指数は、景気の現状把握及び将来予測のために、内閣府が生産、雇用など
景気に敏感な29系列を使って作成・発表しているものである。これまで、所定外労働
時間指数(調査産業計)が一致系列に、常用雇用指数(調査産業計、前年同月比)が
遅行系列に採用されていたが、第11次改訂(2015年7月)後、きまって支給する給与
(製造業、名目)が新たに遅行系列に採用された。
3 国民経済計算の推計の資料(内閣府)
国民経済計算の推計に際し、雇用者報酬の算定資料となっている。
4 建設工事の労務単価の算定(国土交通省)
建設工事の契約や製品単価の決定などで、人件費の算定基礎資料に利用されている。
5 人事院勧告の基礎資料(人事院)
民間給与の一般的動向の把握に使用されている。
Ⅲ その他の利用状況
1 海外への紹介
ILO、OECD等国際機関に定期的に報告されるなど、国際的にも広く利用され
ている。
2 民間企業における利用
イ ベースアップ等賃金改定の参考資料としての利用ほか、労働関係の基礎資料とし
て利用されている。
ロ 民間の調査研究機関等が、景気判断、景気予測等を行う際に利用されている。
3 民事事件・事故などの補償額の算定
交通事故の補償など逸失利益算出の基礎資料として利用される場合がある。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/dl/maikin-katsuyou.pdf
ひー。これはエライことじゃないですか? 冒頭のいくつかは、国が差額支給の方向で動いている既報の件として。
最低賃金や年金の審議資料。建設工事の労務単価の算定(国土交通省)。人事院勧告の基礎資料(人事院)。ベースアップ等賃金改定の参考資料としての利用。これらは、国民の所得水準に影響しそう。
最低賃金が低い水準に抑え込まれていたとしたら、その分のバイト代を遡って支払えと雇用主あてに請求したり、国の怠慢で損害を被ったんだから損害賠償しろなんて事例が出てきてもおかしくない。
「年金はもっと支給されているべきだった。差額を支給しろ」なんていう風に、国民年金について野党は突くんじゃないかなあ。政府としても無視できないでしょ。年金給付については、国民は敏感だからね。するとこの間と今後の給付水準について、改めて社会保障審議会(年金部会)に諮問するんだろうか。参議院選挙前だから、「えい、過去に遡って差額支給してしまえ」なんてことになったら、年金運営の健全性も損なわれてしまいかねない。訴訟リスクもありそう。20年以上も不適切な統計だったんだから。
建設工事の労務単価は、オリンピック準備と復興需要で高い水準だったのが、更に高く改定されるのだろうか。過去にさかのぼっての単価改定になるのか。公共事業で債務負担行為で複数年度にわたる契約をしていた場合等、不当に低い単価で契約させられていたという理由で、施工業者から契約変更を求められる可能性があるのではないか。すでに完了済みの工事についても、差額の請求や、訴訟を提起されるリスクが考えられる。これらをどう見込んで、自治体は予算編成するのか。自治体財政運営にも不確定な要素が生じてしまうとすれば、嬉しいことではないだろう。
人事院勧告もどうするのか。遡って改訂だ(選挙前だし)、なんてことになったら、地方自治体も補正予算で対応しなければならない。
民間企業も、春闘に影響するかもね。
日本の信用に関わる
「国民経済計算の推計に際し、雇用者報酬の算定資料」、「ILO、OECD等国際機関に定期的に報告」など、マクロ経済の資料としても活用されていたわけで、これらについては訂正するんだろうか。かつて日本は、中国やソ連等の計画経済諸国の統計は恣意的で信用できないと評していたし、今もういう風潮がある。
今回の件で、日本の統計もそのような疑いの目で他の自由経済の国から見られてしまうとしたら、悲しいことだ。
厚生労働省の罪は深い。
この際、他の政府統計に誤った手法が用いられていないか総点検の上、結果を公表して信頼回復に努めるべきではないか。
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