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市長発言について
小泉は、市長発言の趣旨を、概ね支持する。感染拡大を防ぐ上で必要でない限り、企業は、従業員の新型コロナ感染を公表する必要はない。必要がないのに公表する場合は、感染した従業員の同意を得るべきである。新型コロナ感染患者は守られるべき弱者であり、社会はそのための努力を惜しむべきでないし、感染患者個人の特定に結び付くような情報は、積極的に公表すべきではない。感染患者とその関係者が差別に遭う事例は、既に多くが報道等を通じて我々が知るところであり、残念ながらこの現実に対処するのが政治の責任である。感染患者は回復後には社会復帰を果たさねばならず、その妨げとなりうる差別の可能性は、回避されねばならない。但し、感染拡大を防ぐ上で必要であれば、市保健所が企業名等の公表にためらうべきでないのは、当然のことだ。実際そのような前例がある。
企業に「要請」?
従業員感染の事実を公表しないように、市が企業に「要請」すると報じたメディアがいくつかある。確かに会見では、市長は「市として、各企業に要請をしたい」と述べたが、その直後に「発表することは構わない」と言い直しており、これは会見概容を伝える市サイトで確認することができる。念のため、市長にそのような考えがないことを今月15日、小泉から秘書課に確認した。
13日市長会見の直後、市保健所長が単独で会見した際、「(情報公開と非公開の)両方のバランスが問われ、正解はない」等とし、非公表の要請が必要との見解は示さなかった。
従って事実上、市として要請するとの市長発言は、速やかに訂正されたと言うべきだ。
報道はセンセーショナリズム優先?
このような経緯を踏まえずに、必要がなければ、企業はコロナ感染を公表しないことが望ましいとの市長見解を、企業に「要請」等と一段強く報じたのは、小泉の調査した範囲でSBC、NBSの各TV並びに読売、朝日、毎日の各紙。NHKは「依頼」と報じた。市長の目的は問題提起で、ある程度の批判は予期しながら議論を巻き起こそうとしたものと小泉は受け止める。市長の主張に対しては様々な意見があろうが、敢えて信念に基づき泥を被る覚悟で発言する姿勢は、政治家として敬意に値する。
その意味で注文通り、報道は叩いた訳だが、市長が言い直した「要請」という言葉を見出しにまで使うセンセーショナリズムは、ジャーナリズムとは異質なものに見える。ネットに押される既存メディアの危機感は理解するが、事実を誇張するようでは逆効果ではないか。
一方で「要請」という表現を不用意に使ってしまった市長にも問題はある。小泉も、プライバシー関連情報の取り扱いには慎重であるべきという原則からは、市長発言を支持する。しかし「要請」は言い過ぎた。揚げ足は取られないに越したことはない。
共産党は労働者の敵?
市議の野々村博美団長が率いる共産党長野市議団は一部メディアのピントがずれた論調に乗じて、市長に発言撤回を迫る「緊急要望」を提出し、小泉を大いに失望させた。加藤市長は、新型コロナ感染労働者のプライバシーを守り、差別を防ごうと奮闘した。世論に賛否はあるだろうが、弱者を守ろうとする政治家としての心意気までは、誰も否定できないだろう。しかし共産党長野市議団は、内部の感染労働者の存在を暴露する企業は「社会的な責任」(朝日新聞)を果たしていると強弁。要望書の文面からは、感染の事実を公表した企業が、果たして感染労働者を守れているのかという視点がまったく欠落しており、加藤市長とは好対照だ。
かつては労働者を守った共産党が、資本家の都合に寄り添うようになってしまったのだろうか。
公表する大企業に打算?
ある東証一部上場企業は、内部に新型コロナ感染事例が生じたことを公表。長野市の感染者は『新幹線車掌』 JR東日本長野支社が公表 「乗客、社員に濃厚接触者はいないとの情報」
長野市保健所は、感染拡大の懸念が小さいことから、感染患者が所属する企業名を公表しなかったことが、一部から批判を浴びた。一部上場企業に比較して、市保健所は情報公開に消極的ではないか、というわけだ。だが、本当にそうだろうか。
小泉が調査し、浮かびあがった事実は次のとおりだ。
◆当該企業長野支社は、相談電話窓口を今月3日から15日まで設置したと言うが、15日に小泉が同支社サイトを注意深く精査しても、そのような情報を見つけることができなかった。またインターネット上の情報を検索しても、具体的な電話番号は発見できなかった。
(市保健所は相談電話窓口を24時間体制で運用し、電話番号を周知している)
◆同支社に相談件数を照会したが、回答を控えるとのことだった。
(市保健所は相談件数を公表している)
◆当該企業は、特定の業務に就く社員が新型コロナに感染した場合、公表すると事前に社内で決めていたという。その社内方針決定の際に労働組合と折衝したのかと問うたところ、そのような経過はないとの本社回答だった。
◆公表について、感染した当事者に意向を確認しているかとの問いに、確認していないとの本社回答だった。当事者の健康上の理由としている。
(市保健所はプレスリリースの際、当該企業を通じて表現のチェックを依頼している)
当該企業に比べ、市保健所が説明責任を果たそうとする姿勢は、決して見劣りがするものではない。当該企業は本人・従業員のプライバシーに頓着せず、ビジネス優先という印象を、小泉は受ける。
大企業が内部の感染労働者の存在を暴露するとき、自社のブランド維持という思惑の犠牲にしてはいないだろうか。当該企業は同業の競争相手がほとんどいないほどの大企業であるがゆえに、またコロナ禍のため従前から利用客が激減していたという事情もあり、感染事実を公表しても、業績への影響はほとんどないか、軽微だろう。一方で、「どうも新型コロナが出たらしい」という不正確な憶測や、情報が洩れてメディアが批判的に報道するリスクを考慮すれば、進んで公表する方が得策なのかもしれない。
そのような打算が感染者公表の背後にありうることを見抜く目が、我々には、―中でも共産党には特に―必要ではないか。
因みに、この感染患者からの感染の広がりは、阻止できた。防疫上、公表が必要ないとの市保健所の判断が証明されたことになる。
企業名を公表すれば、不安はなくなる?
「情報を出さないことで、あそこで感染者が出たんじゃないかと噂になり、社会に不安が広がる。」よく聞くリクツだが、正当な主張だろうか。小泉は懸念を禁じ得ない。
企業名だけの公表では、あの支社、あの営業書、あの部署で「感染者が出たんじゃないかと噂になり、社会に不安が広がる」可能性はないのか。それにどこまでも応えてゆけば、「あの人が感染したんじゃないかと噂になり、社会に不安が広がる」とのリクツに行きつく。
防疫上必要な場合を除いて、プライバシー保護に徹する方針が正しい。誰もが、新型コロナに感染しないとは言い切れない。明日、新型コロナに感染しているかもしれない。そのとき、プライバシー保護原則は、あなたを守るためにも必要なのだ。
なお、防疫上必要であれば、企業名や事業所名、所在地まで明らかにする覚悟を、当然ながら市保健所は持っており、その前例もある。
https://www.city.nagano.nagano.jp/site/covid19-joho/450162.html
市長会見発言の抜粋
新型コロナウイルス感染症患者のプライバシーの保護についてである。
企業の従業員が新型コロナウイルス感染症に感染した場合、本市や長野県では、不特定多数の人への感染(拡大)の恐れがある場合など、感染拡大の防止に必要がある場合を除いて、企業名を公表せず、本市においてはプライバシーの保護のためその人の職業も公表していない。
一方で、企業では、社会的責任を果たそうとする中で、社内での感染の事例を公表することが見受けられる。
しかし、そのことが、かえって感染された従業員のプライバシーの過度な侵害となってしまうケースが多い(※)。このため、本市としては、濃厚接触者が特定できない場合など公表しないことが市民の不利益となる場合は原則として公表を促すが、公表しないことが市民の不利益とならない場合は、従業員やその家族のプライバシーを守るために、企業は感染の事例を公表すべきではないと考えている。
つまり、公表するか否かは、市民の利益となるか、不利益となるかによって判断するということで、市民にとって不利益にならない場合、また、感染拡大もしないとある程度予想される場合には、企業の名前を公表しないことが望ましいと考えているところである。
(中略)
(質疑に対して)
全く他に影響がないということであれば、個人のプライバシーをしっかり守るべきだと思う。私の場合は濃厚接触者であったが、感染者になった場合、誹謗(ひぼう)などもある中で、個人のプライバシーをどういう形で守るか、公共の利益に反するか否かという状況の中で考えるべきだと思うので、市として、各企業に要請をしたいと考えている。
(中略)
発表することは構わないが、できるだけ発表しない方が社員・個人のプライバシーを守ることができるので、大切だと思う。
(中略)
ちょっとした何気ない言葉に(言われた人は)傷ついても、(言った人は)傷つけたと思わない。誹謗中傷かどうかは、言われた本人が感じることである。人間に防衛本能がある限り、(誹謗中傷を止めるのは)無理である。例えば石を投げたりするなどの極端な行動は当然いけないことだが、通常は(接触を)避けるのが普通であり、避けたこと自体が誹謗中傷だと受けた本人が思えば、それは誹謗中傷である。
※企業が内部の新型コロナ感染について公表することについて、「そのことが、かえって感染された従業員のプライバシーの過度な侵害となってしまうケースが多い」との市長発言については、そのようなプライバシー侵害事実を把握した上でのものではない。会見前日にこのことを確認した小泉は、断言するなら事実に基づくべきと秘書課を通じて助言したが、容れられなかったのはやや残念。