「ふるさと納税 誰のため」...こんな見出しをつけ、長野県の地元紙がのべ2面にわたってふるさと納税を批判しています(今月28日)。これは「地域からの問い 7.21参院選」と題されたシリーズ記事の第一回目のようです。この新聞社は、これまでにも社説等で、繰り返しふるさと納税を批判しています。主張は正当なものなのでしょうか。小泉一真が検証します。 |
成功事例から始まる批判記事
記事は、長野市ブドウ農家の成功事例から始まる。市のふるさと納税返礼品として取り扱ってもらうことで、「年末には今秋収穫分の先行予約が殺到し、数百件に達した」という。
「ふるさとチョイス」に掲載される長野市のふるさと納税返礼品「シャインマスカット」 |
「自身でネット販売も扱うが、『こんな反響は初めて。直販と同じ高単価で売れる』」と生産者は肯定的なコメントを発している。
ここで押さえておきたいのは、「予約が殺到」すれば農業経営の効率化・安定化がはかられ、「高単価で売れる」ことは、農家の所得の押上げに繋がるということだ。そのうえふるさと納税の返礼品に選定された事実は、行政が一定程度の品質を認めたというイメージがつき、ブランドの強化にもなる。生産者支援として、ふるさと納税返礼品の枠組み以外で、行政がこれ以上のことをできるだろうか。
信毎は紙面のバランス上、批判だけでなく肯定的なコメントを配置するという単純な動機からこのブドウ農家の声を拾い上げたのかもしれないが、全くバランスを欠いている。この後、ふるさと納税批判を延々と2ページにわたって展開し、全県的なデータを表にして説得性を強化しようとする努力に比べれば、成功事例を一つ紹介するだけでは、均衡を失している。長野市が扱う返礼品は300種以上となっており、そのひとつひとつに、このブドウ農家のような成功の可能性がある。このようなプラスの効果は、一事例を言い訳程度に掲載するだけで、全県的な効果の試算も示さないのは、新聞という公器として中立性を欠くとの批判を招きかねない。
「地方の予算 首都圏に流れ」は本当か?
ここで押さえておきたいのは、「予約が殺到」すれば農業経営の効率化・安定化がはかられ、「高単価で売れる」ことは、農家の所得の押上げに繋がるということだ。そのうえふるさと納税の返礼品に選定された事実は、行政が一定程度の品質を認めたというイメージがつき、ブランドの強化にもなる。生産者支援として、ふるさと納税返礼品の枠組み以外で、行政がこれ以上のことをできるだろうか。
信毎は紙面のバランス上、批判だけでなく肯定的なコメントを配置するという単純な動機からこのブドウ農家の声を拾い上げたのかもしれないが、全くバランスを欠いている。この後、ふるさと納税批判を延々と2ページにわたって展開し、全県的なデータを表にして説得性を強化しようとする努力に比べれば、成功事例を一つ紹介するだけでは、均衡を失している。長野市が扱う返礼品は300種以上となっており、そのひとつひとつに、このブドウ農家のような成功の可能性がある。このようなプラスの効果は、一事例を言い訳程度に掲載するだけで、全県的な効果の試算も示さないのは、新聞という公器として中立性を欠くとの批判を招きかねない。
「地方の予算 首都圏に流れ」は本当か?
続けて地元紙がヤリ玉にあげるのは、「ふるさとチョイス」等、ふるさと納税を扱うネット上のふるさと納税ポータルサイトだ。ふるさと納税返礼品を掲載し、寄付金を決済するシステムを利用する自治体は応分のコストをポータルサイト運営会社に対し、負担する。自治体が個々にこのようなシステムを構築したとすれば、それなりのコストと人件費をかけなければならない上、アクセス数を稼ぐにはそれなりのノウハウが必要となる。従って、ポータルサイトにアウトソーシングすることは現実的な解決策なのだが、地元紙はこれが気に入らないらしい。
「県内から仲介サイトに契約料3億7400万円」と見出しを付け、
「県内から仲介サイトに契約料3億7400万円」と見出しを付け、
「地方への納税の仕組みでありながら、自治体予算が首都圏の大企業に流れる『矛盾』」
と主張する。
しかし、これは木を見て森を見ず式の議論ではないか。
「地方への納税の仕組み」であるとふるさと納税を理解するなら、その本流であるふるさと納税制度による税の地域間の移転にこそ目を向けるべきだ。ポータルサイトというシステム利用料に流れる微々たる傍流を、ことさらに取り上げる目的は何なのだろうか。
東京一人負けのふるさと納税
下のグラフは、2017年度のふるさと納税寄付受総額のもの。
出典:都道府県データランキング https://uub.jp/pdr/p/furusato_2.html |
東京都をはじめとする、いわゆる「都会」の都府県は、下位にあるのが分かる。上位にあるのは人口が集中せず都市化が進んでいない、自然が豊かな道県で、長野県も9位に食い込んでいる。大阪府だけは例外的に上位で、さすがに商売上手と言うべきか。
だが、健闘する大阪市も、その内実を詳しく見ると、決して喜べる内容となっていない。寄付受総額から住民税減税額(ザックリ言えば、その自治体住民が他の自治体にふるさと納税した額)を差し引けば、赤字となる。この差し引き額では、東京都(-623億円)をトップに以下神奈川県(-184億円)、愛知県(-126億円)、埼玉県(-109億円)と続く。大都会、なかでも東京が一人負けなのだ。
だが、健闘する大阪市も、その内実を詳しく見ると、決して喜べる内容となっていない。寄付受総額から住民税減税額(ザックリ言えば、その自治体住民が他の自治体にふるさと納税した額)を差し引けば、赤字となる。この差し引き額では、東京都(-623億円)をトップに以下神奈川県(-184億円)、愛知県(-126億円)、埼玉県(-109億円)と続く。大都会、なかでも東京が一人負けなのだ。
地元紙は、ふるさと納税で「地方から東京へ金が逃げる」と主張したいのかもしれないが、総体的には「東京等から地方へ」所得が移転しているという議論の方が有力だろう。
ためにする議論はやめよう
小泉が普段接する新聞記者は聡明な方々ばかりで、このような事実があることは、記事を書く上で当然に御存じの筈だ。だからこそ、ふるさと納税批判という結論ありきで、あえて木を見て森を見ずの議論を強調したのだろうか。その目的は何だろうか。
今回の記事は、「地域からの問い 7.21参院選」という連載の一環であるらしい。ふるさと納税制度は、第一次安倍内閣で創設された背景がある。この記事が参院選に向け、読者を一定の方向に導くことを目的とするものであり、そのために事実を取捨選択した記事としたのだとすれば、感心できない。小泉も、現内閣のしてきたことには問題が多いとは思うが、メディアが世論誘導により選挙を左右するという野望を抱く様は、見たくはない。
小泉が普段接する新聞記者は聡明な方々ばかりで、このような事実があることは、記事を書く上で当然に御存じの筈だ。だからこそ、ふるさと納税批判という結論ありきで、あえて木を見て森を見ずの議論を強調したのだろうか。その目的は何だろうか。
今回の記事は、「地域からの問い 7.21参院選」という連載の一環であるらしい。ふるさと納税制度は、第一次安倍内閣で創設された背景がある。この記事が参院選に向け、読者を一定の方向に導くことを目的とするものであり、そのために事実を取捨選択した記事としたのだとすれば、感心できない。小泉も、現内閣のしてきたことには問題が多いとは思うが、メディアが世論誘導により選挙を左右するという野望を抱く様は、見たくはない。
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